母を看取る(1)

 これは2022年秋から2023年2月、

母が肺がんの抗がん剤治療を止め、

緩和ケアを施していただきながら

生き抜いた数ヶ月間の日記です。

母(ゆっこさん)への手紙風にしました。

 最期の時を共に悩んで考えて

一緒に過ごしてきたことを私はこれから

自分の生きる糧にして、

母の道標に照らされながら

少しずつ前を向いて生きたいと思います。

 

 

 

10月22日

 

こんばんは。

朝晩は寒くなってきたね。調子はどうですか?

眠れてるかな?

私はおととい、布団に入ってから3時間以上眠れなくて布団の中で悶々としてたよ。

おかげで昨日はよく眠れました(笑)

 

この前、前向きにって話をしてたよね。

考えたんだけど、前向きにって思わなくてもいいんじゃないかなって。

たまには後ろ向きでも横向きでもいいと思うんだ。

 

10月23日

 

今日はありがとう!

Hが昨日遊びに行って帰りがけにまた泣いちゃったんだってね。

Hはゆっこさんが大大大好きだからね。

その話をしててまた泣いちゃった私たち。涙もろい家系なんだ(笑)

HもRも本当にやさしい子だよ。ナイーブすぎるんだよね。

そんな子に育ってくれて本当にうれしく思うし

ゆっこさんがいてくれたから優しいいい子に育ったんだと思うよ。

本当にありがとう。

 

10月27日

 

午前中に行くと

静かに寝椅子に体を横たえて荒い息をしている。

いつも行って顔を見るとホッとするとともに

あぁ奇跡は起こらないんだとグッと覚悟をする。

「なんか体が楽になったよ」とか「がんが消えた気がするの」なんて

0.001パーセントの確率でも言ってくれるんじゃないかって

0・0001パーセントの期待をもって会いに行くけど

そんな魔法はどこにもない。

そして最後にバイバイした時からまた少し小さくなってて

一歩ずつ確実に衰えているのを心のどこかで感じながらも

見ないふりしてわざと大きい声であいさつしてる自分に気づく。

そしてもう一度ぐっと覚悟をする。

 

お惣菜を作って食べてから

浜川運動公園にドライブ&散歩に行く。

少し紅葉。冷たい風。季節は秋から冬へ急ぎ足。

そんなに早くいかないでほしい。

私の腕を杖代わりにしてゆっくり歩く。

静かで穏やかなひと時。

こんな時間をこんな風に2人で過ごすとは

夢にも思わなかったね。

これはこれでいいもんだね(笑)

 

10月29日

 

今日食用ほおずきのことをテレビでやっていて

それを見たら昔ほおずきの遊び方を教わったことを思い出したよ。

ほおずきを破れないようにもみほぐして

小さな穴から中身を出して水でよく洗い

それを口に含んでつぶしたり膨らませたりしながら

音を出すんだよね。

ばぁばはすごく上手に作って上手に音を鳴らす名人だったね。

あの頃をなつかしく思い出したよ。

心が少しほっこりしたと当時にさみしくなったよ。

覚えていますか?

 

記憶は心の中にあって

その人との思い出は生き続ける

だから大丈夫だって教えてくれたね。

 

10月30日

 

実家に行くと父親がこれからパンを作ると言う。

作るといっても、粉やバターなど材料を用意して

計りにかけて機械に入れるだけ。

しかし昭和の男にはまず材料をそろえるのもひと苦労。

強力粉と薄力粉、どちらも使うの?

何が違うの?どっちがどっち?​

ドライイーストってなんだ?

バターは冷蔵庫のどこに隠したんだ??

計りはどこだ?小さじってなんのこと?

ってな具合に。

 

ゆっこさんに「ったくバターの場所すらわからないの?」とか

「水は最後!!!」とか言われながらも

そこは昭和男の意地でもくもくと頑張っていた。

 

人生いくつなっても日々勉強

という言葉を実践している人=父親。

素晴らしいことじゃないか。

「このパンは俺が作ったってことでいいのかな?」

だって。

いゃ機械だと思うけど、

まぁ父のはじめてのパン作りに立ち会えたわけで

これはこれで貴重だな。

 

11月5日

 

いろいろあるよね。

私もいろいろあるよ。

 

おとといはリハビリの途中で具合が悪くなって

家に帰ってきて訪問看護さんと父に電話して

緊急に来てもらったらしい。

いろいろとしてもらって落ち着いてきて

事なきを得たようだけど。

不安だよね。

耳鳴りがしてめまいがして嘔吐して

自分の体が思うようにならなくなって

本当に不安で不安で仕方ないと思う。

そんないろいろを抱えながらも

人は生きていかなくちゃいけないんだね。

むごいことのようにも思うけど

それが人生なんだよね。

 

 

今日はAちゃんがお花を持ってきてくれて

ゆっこさんもとても喜んでいた。

明るい色のお花、見てると元気もらえるね。

感謝だね。

 

今日はうまく眠れるかなぁ。

 

 

11月11日

 

珍しく午前中に会いに行く。

何もやる気が起きないとのこと。

あるよねぇ、そんなこと。

 

さっき昔書いた日記を読んでいた。

63歳のゆっこさんの誕生日

絵手紙、コーラス、書道、山歩きなどなど

いろんなこと習ったりして多趣味な人。

十分いろいろやってきたからそろそろ

少しずつブレーキをかけてもいい頃だよ。

 

●エピソード①(0歳~10歳)●

 

 物心つくかつかないかの小さな頃から

「Rちゃんは美人さんだね」

とことあるごとに言って育ててくれたね。

まるでおまじないみたいに。

鼻筋がきれいに通るように、鼻が高くなるようにと

いつも鼻をつまんでおく癖をつけるのも教えてくれた。

今もその癖は残ってて、

たまにススッとなでるように2~3回つまんでる。

美人さんになったかどうかは疑問だけど(笑)

美に対しても意識高かったのはさすがだね。