母を看取る(2)

11月24日

 

風の強い日だったけど

いつものように散歩ができてよかったね。

最近では散歩の途中の口数も減ってさみしいな。

花や自然が大好きなあなた、

以前は空の色、雲の形、花の名前、木々にとまる鳥の声・・・

散歩中の感動をたくさんおしゃべりしたよね。

いろいろなことを教えてくれたよね。

今はおしゃべりはできないけど、

心の中はきっとそのころのまま、

静かに身体いっぱいで感じてると思う。

 

●エピソード➁(0~10歳)

極端な引っ込み思案だった私。

幼稚園でおしゃべりをした記憶がない。

お友達と遊んだ記憶がない。

あるのは泣きながら先生にだっこされていたこと。

だけどなぜだか、たぶん母はまったくそれを心配してなかった。

 

それより上手に泳げることや、お留守番ができること、

作文が得意なことをすごいすごいとほめてくれて

いつでも自信をもたせてくれた。

 

自己肯定感半端なく育ててくれたね

(笑)

 

11月25日

 

今日は顔色はまぁまぁだが気分はすっきりしない様子。

もらってきた薬をしきりに入れ替えたり数えたりして

考えている。思考もだいぶ鈍っているようだね。

薬がまた少し増えたのが心配だけど

こればっかりは仕方ないね。

苦しまないように、というのが一番の願いだからね。

 

先日Hの友達のMちゃんからお手紙をいただいたね。

そのお手紙が素敵すぎて感激してしまった。

うれしいね。

Mちゃんの心の中にゆっこさんとの素敵な思い出が

たくさんあるんだね。

ドーナツを作ったり一緒にいろいろとおしゃべりした思い出は

かけがえのないキラキラだね。

Mちゃん、H、ありがとう!

 

 

11月30日

 

顔色はいいけどちょっと反応が鈍くなってる。

口数も少ない。

 

父親と話したところ、

緩和ケアの先生に年内厳しいかもと言われたらしい。

予想はしてたけど…

やっぱりつらいね。

受け止めてはいるけど

抵抗したい気持ちもある。

限られた時間で私は何をしてあげられるのかな。

生きてるすべての人の時間には限りがある、

でもそれを忘れて私たちは永遠のように

時間をむさぼってしまうね。

だったら私はどう生きよう

どう生きるかはどう死を見つめるか。

 

 

重苦しくなってしまったけど…

 

今日はデザートのブドウを食べて

おいしいと微笑んだその顔がとっても

優しくて美しかったよ。

 

●エピソード(0~10歳)

極端なほど怖がりだった私。

夜中に温かい母の布団にもぐりこんだ時の

安心感。母の足に自分の足をくっつけると

不思議とすっと眠れた。

 

●エピソード(10~20歳)

 ドーナツ、おにぎり、ハンバーグ。

うちに遊びに来る友達に大人気の母の味。

ちょっとワルいお友達が泊まりに来て

二日酔いで食べたおにぎりとみそ汁が

ほんとに染みた、って(笑)

後々よく友達が言ってたな。

 

●エピソード(10~20歳)

食べ方、姿勢、お行儀などに

かなり口うるさかった。

よく注意された。

今となっては感謝だね。

小さい頃のそーゆーのって

うん十年経った今になって

品として醸し出されるもんだからね。

 

●エピソード(20~30歳)

子育てに関してはほんとに助けられた。

離乳食が進まないとき

よくいろいろなものを工夫して作ってくれた。

小さな小さなおにぎりはHのお気に入りだった。

 

 

●エピソード(20~30歳)

 

結婚式のブーケは母の手作り。

お花もずっと習っていたものね。

今考えると、仕事も忙しかったのに

すごいなぁと思う。

 

12月4日

 今日行くと家の中は空っぽ。鍵もかけずに

ふたり仲良く神隠しか!?と思いきや

ふと外を見ると散歩の二人が戻ってくるところだった。

父が散歩に付き合うのなんてはじめてじゃない?

父の腕につかまってゆっくり歩いてくる

どちらかというと父のほうが嬉しそうに照れて見えたぞ。

今では料理、掃除、洗い物などなど

なんでもこなしている父。(母の指導の下、やらされている(笑))

汚れが落ちてないからもっときれいに洗えだって、

と相変わらずな二人だが

父が今まで以上に冗談言ったりふざけたりして

母を笑わせて明るくしてるのがわかる。

父なりに寄り添おうとしてるんだよね。

それが感じとれるから胸が締め付けられそうになる。

3人で笑点見ながら冗談言って笑って

こんな時間がかけがえのないものだなって

今ならわかるんだ。

 

帰り際にはいつも

ちゃんとご飯食べてね

運転あわてないで気を付けてね

といつもいつも私の心配をしてくれるね。

私は大丈夫だよ。

絶対に悲しませることはしないからね。

 

●エピソード(20~30歳)

 

 子育てに行き詰ってよく電話で相談したよね。

あまりにつらくなって

このままだと虐待しそうだよ

って泣きながら電話したっけ。

電話を切るとすぐに2時間半かけて

高速を飛ばして、文字通り飛んできてくれたね。

ありがたかった。

寝つきの悪い娘をおんぶして

よくベランダに出て寝かしつけてくれた。

何分も何十分も寝るまで歌を歌いながらおんぶしてくれたね。

それまで自分本位で生きてきた私は

はじめて自分の思い通りにならないことに直面したんだ。

思い通りにならないときにも、

辛抱強く、いろいろと工夫して

愛情をもって丁寧にやるってことを

教えてもらった気がする。

 

12月5日

 

夜に娘とのライン

 

娘 宣告を受けた家族と本人のかかわり方、難しいと思う。

  できるだけ笑顔で会いたいし、その方が

  ばぁばもうれしいと思うっていうのは

  分かってるつもりなんだけど、

  いざ顔を合わせると悲しい気持ちが

  100%になっちゃうな…

 

私 そうなんだね、涙が出ちゃうよね。

  なんか行くとじぃじがやけに明るくて冗談ばっかり言って…

  切ないよね。

  なるべく普通に楽しく過ごすのがいいんだろうね。

 

娘 苦しい治療をせず、自然に沿って最後まで生きるって決めた

強いばぁばを讃えるには、自分たちが悲しんでる姿じゃなくて

  笑顔でばぁばの生き方を見届けることができたらいいのにな。

  そうなんだよ…じぃじの気遣いがさく裂してる…

  

  そうだね、なるべく会いに行こうとは思うんだけど  

  絶対涙なしには行ってこれないから気合がいる…ね。

 

私 うんうん、ほんとそうだね。

  母さんも毎回涙が出そうになっちゃうよ。仕方ないよね。

   でもつらいのは自分じゃなくて本人だし、

  自分は会えなくなっちゃうのが寂しいから泣くのかな?

  と思うと、なんか違うよな、泣いてる場合じゃないよな、

  と思える。

  今会えてるんだから今を楽しく過ごせばいいかなと…。

 

娘 それだ…

  会えてる今を 楽しく過ごす、だね。

  病院とか施設にいたら自由に顔を見に行くことさえ

  難しいもんね。たくさん会いに行ける今がありがたいね。

 

 

娘もばぁばのこと、命のこと、

懸命に考えて向き合ってる。

ばぁばが身をもって

最後の大事な仕事をしてくれてる。

私たちに大切なことを教えてくれてるんだね。

最後まで人としてかっこいい姿を

見せてくれてるんだね。

そして娘も息子もそれを感じ取れる人間になってて

本当にうれしく思うよ。

 

それにしても私も娘も涙もろい。

すぐに涙腺が壊れてしまって困るな。